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口移し……?

Author:ばすみん

「おかゆ作ったから、食べて」
朦朧とする意識の中、近づいて来る足音に気づく。何時だか分からないが、外が暗いから
たぶん夜だろう。布団の中で、もぞもぞと寝返りを打ち、その方向に目を向ける。
先生がおかゆをお盆に乗せて枕元に持って来てくれていた。俺が風邪で学校を休んだか
ら、先生が看病しに家まで来てくれている。鼻が詰まっていて匂いは分からないが、暖か
い湯気だけは感じ取ることができた。お腹は空いているが、食べる気がしない。作ってく
れてありがたいが、今はそれ以上に諸症状の不快感のほうが強い。
「…食べたくない」
「薬飲まなきゃいけないから」
「……」
具合が悪いからか、自分でもびっくりするくらい機嫌が悪い。お母さんかよ…と心の中で
悪態をつきながら、布団を頭まですっぽり被って、もう聞きたくないポーズをとる。普段
より高い体温が布団の中に篭って、暑い。
ため息が布団越しに聞こえたと思ったら、気付いた時には布団を剥がされ、先生の顔が目
の前にあった。

唇に柔らかい感触が当たり、口におかゆをねじこまれる。こういう時に限って鼻の調子が
良くなって、耳にかけた長い髪が垂れ落ちるのと共に、消毒の匂いと先生の家のシャンプ
ーの匂いがした。

「っ…」
「おいしい…?」
突然の出来事に驚いて、味なんか分からなかった。それよりも───
「せんせ…それキス───」
「口移しだよ」
きみがわがまま言うから、と俺の言葉を遮るように、圧がすごい笑顔を向けてくる。
ずるい───

この後先生も風邪を引いた。



「先生、俺が風邪引いた時、その、キス…しましたよね?」
「悪い夢でも見てたんじゃないかな」

いつもそうやってごまかす。照れ屋なのか。
俺は、もっとその夢を見たかったのに。

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